灰に汚れた六月に、世界を
「ごめん」

今まで動けなくなった桐子の周りを式神が取り囲み、悟がゆっくりと近付いてくる。そして桐子の腕を掴んで抱き寄せた。

「桐子、俺ずっと桐子のこと……」

悟が震える声で言う。その声は途中から桐子の耳に届かなくなる。共に呪術を修行し、幼い頃から一緒にいた人間の言葉だ。それでもその言葉を疑い、脳からその言葉を消し去っていく。

「桐子、今すぐこんなことやめてくれ。これ以上、俺の好きな桐子を自分を汚さないでくれ」

悟は声を震わせ、泣いていた。愚かな人だと桐子は笑う。道徳も、善意も、もう桐子の中にはないのだ。

「悟、ごめん」

心にもない言葉を言い、油断しきっている悟に桐子は呪いを放つ。悟の体は吹っ飛ばされ、式神たちの姿が消える。

黒い空が青空に戻っていく。空にくっきりと飛行機雲が戻り、復讐は失敗に終わったのだとわかった。

「また会いましょう」

地面に黒い影を出し、桐子はその中に姿を消す。絶望に染まった悟の顔が最後に見えた。
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