- 暁月 -

「逃がすなっ!!!」

闇の中野太い男の声が響く

辺りは木々が生い茂る
真夜中の森


数人の足音が背後から迫ってくる
私はがむしゃらに走った


『はぁ…はぁっ』

「姉上…!」


弟の手を握り時折躓きながらも
追っ手に捕まらぬよう
必死に走った


月が雲に隠れ
辺りが真っ暗な闇に包まれる



男たちが手に持つ火が
小さくゆらゆらと揺れている


だいぶ距離が離れたようだ



茂みに飛び込み
木の影にじっと身を潜めた


しかし大の大人数人と
幼い姉弟では追いつかれるのも
時間の問題




『葵、貴方は反対側へ逃げなさい』


「嫌です!姉上も一緒に逃げましょう!」


『賢い貴方ならわかるでしょ?
このままでは2人とも捕まってしまう』


「母上も父上も殺され
姉上まで失いたくありません。」


『大人しく捕まる気はないわ。
貴方は体が弱いからこれ以上走るのは無理よ。
守りながらでは気が散って戦えないわ。
私が追っ手を引きつけるからその隙に逃げて』


私は葵に父の形見の刀を渡す


泣き腫らした目にさらに涙をうかべ
今は亡き父の形見を震えた手で受け取る葵


自分が足でまといになっている事を
感じていたのであろう


何も言わずただじっと私を見た


『必ず生きてね。』


惜しむように強く抱き締め
月明かりで僅かに照らされた
漆黒の髪を撫でる








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