籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「あのぶりっ子の人、名前忘れた」
「ぶりっ子って」

 土浦さんの言葉選びに笑ってしまった。しかしそれは私も同じように思っていたからスカッとした。

「藤沢千佳さんです」
「そうそう、彼女さっき専務室の前でウロウロしてるの見たんだけど」
「え?」
「総務部って階も違うし専務に用があるなら俺らを通すはず。というか通さないとおかしい」
「…」
「個人的な話なのか呼び出されているのか知らないけど面倒なことに巻き込まれたくないし仮に何かあれば業務上こっちに責任が及ぶ可能性がある」
「なるほど」
「何か知らない?専務の婚約者なんでしょ」
「っ」


 うんうんと頷く顔を上げるが、専務の婚約者というワードに全身が凍り付いた。今何て?と聞き返すこともできずフリーズする私にようやくこちらに目を向ける。眼鏡を通して私を映す瞳は常に真っ黒だ。


 まるで彼の心の中を表しているようだと思った。腹黒そうだもんな…と。
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