籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
どうして私に会いたいといったのか、ただのナンパには思えなかった。
捨てていなかった彼の連絡先の書かれたメモを取り出す。
まだそんなに遅い時間ではない、スマートフォンで紙に書かれてある番号に電話を掛けた。

3コールでもまだ鳴り続けるそれに電話を切ろうかと思ったその時。

「もしもし」

落ち着いた声が耳朶を打った。自然にスマートフォンを握る力を強める。

「あの、…佐伯はすみです。ロンドンでお世話になった…」
「電話くれるのを待ってた。ありがとう。これは君の個人携帯の番号?」
「ええ、そうです。えっと…」
「仕事は?もう終わってますか?」
「はい、ちょうど今…会社を出たところです」
「じゃあこれから飲まない?」
「…これから、ですか?」
「明日も平日だからそんなに遅くはならない。少しだけ付き合ってくれると嬉しい」
「わかりました」

待ち合わせ場所を伝えられるとその電話はすぐに切られた。

忙しいように思えたのは気のせいだろうか。
偶然出会った和穂と名乗る男性の目的を知りたいという欲と彼がどういった人物なのかにも興味があった。

今まで出会った人たちの誰にも当てはまらないタイプの彼を知りたい。

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