籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

そっとドアを開け中に進む。
「失礼いたします。人事部の佐伯と申します。来月よりコーポレート部秘書課に異動が決まりましたのでご挨拶に参りました」

頭を下げてからスラスラと言葉を発せたのは脳内で何度もシミュレーションをしたからだ。
正面を見据えるとちょうど椅子に腰かけてパソコン画面を見ている専務が立ち上がった。
しかし、私は専務の顔を確認した途端、悲鳴にも似た声を出した。

「っ…え?何、どういう…」
「初めまして。今日から常盤物産の子会社である常盤食品株式会社の専務取締役に就任した常盤和穂です」
「…常盤、和穂?」

そこにいたのはロンドンで1人でいる所を助けてもらい、今もマンションで一緒に住んでいる同居人和穂さんだった。
初めて聞いた苗字に頬が強張り笑顔を作ることが困難になる。
椅子から立ち上がり私に近づく彼は「来月からよろしく」と口元に弧を描く。
「…どういうことですか」

夏子が今日言っていた『専務変わるらしいんだよね。親会社の常盤物産の副社長?だっけ?がなんか兼任してくるんだって。それがめちゃくちゃ若くてイケメンらしい。社内の噂になってる』
あのセリフを思いだす。興味がなかったから適当に流して訊いていたが、重要なワードだというのに。

「常盤物産の副社長をやっていたんだけど子会社の専務も兼任することになったんだ。これに関しては人事上、君に伝えるのは今日以降でなければいけないから言えなかった」
「副社長―…待って、副社長?」

混乱する頭を抱えるようにして自分の頭に手を当てた。

目を閉じて両親の会話も思い出す。私の見合い相手は…―。
「はじめまして。今月に行われる君の見合い相手は俺だよ」
「…嘘、」
口をあんぐりさせる私とは対照的に“常盤和穂”は笑みを浮かべたまま私に一歩近づいた。
「よろしく、はすみ」


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