籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「ずっと無言だけどどうしたの?」
「あぁ、うん…大丈夫、ありがとう」
「専務に会ってきたんでしょ?どうだった?」

 避けたい話題なのにも関わらず夏子はクルクルとペンを回しながら横目を向ける。専務であり婚約者である彼と交わした言葉を思い出しさらに深い息を溢す。

 絶対に彼が苗字を教えなかったのも、職業を教えなかったのも、全て点と点が線でつながった瞬間だった。

 見合い相手だということは話してくれてもよかったのに、とは思うが彼によるとそれを話せば会社人事のことも話さなければならず、かつ彼の両親は顔合わせのタイミングで正式に決定したかったようだ。

 私の両親は決定事項のように話していたが相手からすれば一度目に白紙にされた相手なのだから慎重になりたいだろう。

「どうだったって…まぁイケメンだよね。知ってたけど」
「え?知ってた?」
「あのさ、今度結婚するって言ってた相手いるでしょ?それ、彼だった」
「…は?」
「苗字も教えてもらっていなかったから分からなかったの。秘書で彼のもとで働いて、しかも政略結婚の相手が彼だなんて…」
「ちょっと待って。今一緒に住んでいる人が昔結婚する相手だったけど嫌で白紙にした相手と同じってことだよね?」
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