秘密と家族
秘密
『━━━━━じゃあ…琉雨、頼む』
「ん」

琉雨と琉梨の朝は、ゆっくりだ。
琉雨のレストランは、夕方開店だから。
なので、昼前くらいにブランチをして琉雨は仕事に出るのだ。

バルコニーで煙草を吸いながら、電話をしていた琉雨。
煙草を灰皿に潰し、部屋に入った。

「琉雨、ご飯早く食べなきゃ、遅れちゃうよ?」
「ん」
短く返事をした琉雨が、椅子に座った。
向かいに琉梨も座り、二人は声を揃えて“いただきます”と言い、食べ始める。
二人にとって、昼前に食べるこの時間は一日の中でとても貴重だ。
琉雨は帰ってくるのが夜遅いので、一緒に食事ができるのはこのブランチだけなのだ。

「今の電話、華秀(かしゅう)くん?」
「うん」
「レストランの予約?」
「そうだよ」
「へぇー、久しぶりだね!」

華秀は秀彦の年の離れた弟で、琉雨の叔父。
琉雨や琉梨と14歳しか変わらない。

そして、華秀は━━━━━━━
裏の最大組織・竜光(りゅうこう)組の若頭で、琉雨の経営するレストランの本当の経営者だ。

なので、琉雨のレストランにはヤクザの会員がほとんどなのだ。


華秀は神倉家から絶縁状態なので、琉梨はもちろん、秀彦や一誠夫婦もその事実を知らない。

あくまでも、琉雨と華秀だけの秘密だ。

華秀は秀彦と20歳離れている為、親から華秀ばかり可愛がられ、その嫉妬心から秀彦はいつも華秀を苛めていた。
しかし華秀も、やられてばかりではない。
秀彦にいつもくってかかったいた。
その為か二人は、幼少の頃から仲がかなり悪かった。

そして華秀は、中学生の頃から家に寄りつかなくなっていて、罪ばかり犯していた。

しかし琉雨と琉梨の事は、可愛がっていた華秀。
それは、二人が華秀にとてもよく懐いていたから。
弟と妹のように思い、秀彦の目をぬすんで時々家に帰っては二人の遊び相手をしていたのだ。

琉雨が華秀の仕事をしているのは、幼い頃助けられたから。
強面の琉雨。それは幼い頃からで、よく喧嘩を売られていた。
最初は負けてばかりで、華秀がよく助けてくれていたのだ。

その中でも決定的な出来事があった。

琉梨が中学生の頃、他校の学生に拐われた事だ。
たった一人で琉梨を助けに行った琉雨。
相手は何十人もいて、さすがの琉雨もぼろぼろになぶられたのだ。

それを助けたのも、華秀だった。

しかし華秀は琉雨と琉梨を傷つけられた怒りから、相手の学生を殺してしまう。

正当防衛が認められたが、この出来事ともう一つ“ある過ち”が原因で華秀は完全に絶縁状態になったのだ。

“ある過ち”については、琉雨と琉梨は知らない。



そして琉雨は……今度は自分が命の恩人で慕っている華秀の力になる番だと、華秀の代わりにレストランを経営しているのだ。

< 2 / 29 >

この作品をシェア

pagetop