【完結】余計な愛はいらない。


 そう言ったわたしに、野瀬さんは不思議そうな表情を見せた。

「玲音は既婚者で、奥さんも子供もいる人でした。……わたしたちはセフレ、だったんです。会うのはいつも平日で、夜仕事が終わるとホテルで合流して、いつもセックスしてました。……でも、本当にそれだけなんです。それしか、わたしにはなかったんです」

「……杏実、泣くな」

 わたしの瞳から流れた涙を、野瀬さんは優しく拭ってくれた。

「わたしは、玲音のこと本当に好きでした。でも玲音には奥さんがいるから、わたしはただセフレとしてしか愛されなかった。……心まで全部、愛されたかったのに」

 わたしの言葉なんて所詮、ただのわがままでしかない。……でもわたしが話す言葉を、彼は黙って聞いてくれていた。

「……わたしはただ、愛してほしかった。セフレとしてじゃなくて、一人の女として愛してほしかった。……それって、イケないことですか?」

「イケないことじゃない。むしろそれが当たり前のことだろ?……杏実にそんなことを思わせるなんて、そんなの玲音が悪いに決まってる」

 そう言ってくれた野瀬さんは、わたしを優しく抱きしめてくれた。
< 29 / 59 >

この作品をシェア

pagetop