エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない


私は萌が落ち着いて、泣き止んだ頃にお暇した。「帰るね」とだけ言って。
「大丈夫」とか「そんなのいいよ」と言ってあげられたらよかったのに。自分の心が追いついていないというのが正直なところだ。
やっぱりショックだったし、怒りの感情もある。
あの時、初恋が終わった瞬間の、張り裂ける胸の痛みはまだ覚えている。消化できずに何年も引き摺った。
だからといって、萌を責め立てることはできない。
萌が朔のことを好きだなんて知らずに。無神経なことをしてきた。
あの年頃で、私たちがお互い想い合ってるって知ったら辛くなるよなぁ。
私ならどうするだろうか。メールを開けた先に、それが好きな人が他の女性に綴る気持ちがあったら。裏切られた気持ちになる。
私も同じようにするだろうか?
きっと、できないと思う。正義感が勝つというよりは臆病さで踏み留まる。
ただ、萌とは友達付き合いを続けられなくなって離れたと思う。
今まで隠されてきたことを裏切りとは思わない。私の傍で罪悪感に苛まれながら、友達として寄り添ってくれたのも事実。
恨みきれない。かといって、すぐに許せるほどの度量もない。
少し距離を置いて、また普通に話せるくらいに気持ちが凪いで整理ができたら、連絡しよう。萌にそう伝えると、「わかった」と泣いた眦を細めて微笑んだ。
「はぁ、朔とのこともまだあるし」
誤解を解こうとメッセージを送ったけど、既読にならない。
仕事が忙しいのか、故意にスルーしているのか。
どちらにせよ、昨日は泊まりだったから今夜はちゃんと帰ってくるだろう。その時にしっかりと誤解を解くしかない。
それで、私の気持ちも伝える。予定より早いけど、これしかない。
ここで持ち堪えられなければ、私たちは終わってしまう。
とはいえ、朔が私を好きだと聞いたけど、本当にそうなのか昨日の態度でわからなくなってきた。他人からの話で判断して、また見当違いだったら?
……やっぱり怖い。
もし、拒否されたら?夫婦生活も終わってもう会えなくなるかもしれない。
でも、避けられないところまできたのだ。当たって砕けるかもしれないけど、やるしかない。腹を括って、大きく深呼吸をすると幾分胸が軽くなった気がする。
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