エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
朗らかに笑う父と母に朔はぺこりと頭を下げて、もぐもぐとごはんを咀嚼する。
身体はクマ寄りなのに、たくさん頬張りすぎた顔はリスみたいだ。まだ眠いのか気の抜けた目元が幼い頃を思い出させる。学生の頃もうちにごはんを食べに来ていた。特に祖父母が他界してからはよく。その頃に戻ったような錯覚をしそうになる。
「昨日も柚瑠を送ってくれたんだし、これくらいさせてもらわないと。あ、ごはんおかわりどう?」
「いただきます」
母は飛ぶ蝶のごとく朔の元へ行って空になったお茶碗を持ち、キッチンへと消えていく。そりゃイケメンが朝から食卓にいればテンションも上がるのだろう。
でも、私は昨日のこともあり、ただただバツが悪くて、朔に頭が上がらない。
「ほんとにごめんね、朔」
「いいよ。帰る方向同じだったし」
ポリポリと沢庵を食べる姿は本当にどうでもいい感じ。ほっとすると同時に、未だに自分がパジャマのままだと気づく。
しかもすっぴんで、浮腫んで最高にブサイクなはず。慌てて顔を背けた。
「こうしてふたりが並ぶと昔を思い出すな」
「ほんとに。柚瑠はずっと朔くんにべったりだったから」
「ち、違う!逆よ」
元々朔が不愛想すぎて馴染めないから私が面倒をみただけ。途中からは好きになって朔の周りをうろちょろしていたけど!
本人を前にして明け透けに、しかも親から言われると照れを通り越して羞恥心で悶えそうになる。
「朔くんが柚瑠を一緒になってくれたらどれだけ安心か」
「そうよねぇ」
「ちょっと、やめてよ!朔を困らせな……」
「僕でよければ」
傍観者と化していた朔が親子の掛け合いを縫うように声を挟む。注目を浴びる中で、お茶碗と箸を置いてすっと伸びていた背筋をさらに正して私たちの顔を見まわした。
「柚瑠さんと結婚させていただきたいのですが」
その時の前田家と言ったら三人とも絵に描いたような目が点顔で見事にフリーズしていた。


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