エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「まさか、萌が高橋くんと結婚するなんて」
「中学の時、『高橋、鈍くさい!』って怒ってたのにね」
「あはは、まぁね。でも、祐樹といるとほっとするんだ」
「惚気かー、ごちそうさま」
萌と談笑を交えつつ、カメラマンやスタッフの人たちが何枚か写真を撮ってくれる。
スタッフの人から自分のスマホ受け取った後、萌に手招きされてもう一度高砂へと上がった。
「ねぇ、柚瑠。工藤と話した?」
そう言ってちらりと新郎の来客側へ視線を投げる。私も釣られてそちらを見る。あるテーブルのひとつ、その男は座って周囲の友人と話している。
工藤朔。中学の同級生だ。そして、私の中では、唯一の異性の幼馴染みだったりする。
「いや、まだ」
「幼馴染の久しぶりの再会なんだし、声かけてみたら?」
「えー?いいよー!もう十年以上会ってないのに。でも、よく連絡ついたね」
「祐樹がフェイスブックでたまたま一年前くらいに繋がったんだって。こっちに戻ってきてて飲みに行ったりしてたらしいよ。柚とは仲良かったんだし、きっとまた話合うと思うよ?」
「う、うん。じゃあ、あとで話しかけてみる」
そう言ったものの、話しかける気はなかった。というか、私は早くこの場を終えて帰路につきたかった。
萌と高橋くんの幸せそうな姿を見れたら十分。あとは、空気となり周囲に溶け込んで、かつ何も無駄なことはしゃべらずいつの間にかいなくなっていたという流れに持っていきたい。今の私にとって、こういう社交場は何より心を窮屈にさせた。
だって、私は今無職。そして彼氏なしで、実家に身を寄せているから。
そう、ニートだ。
だから、堂々と身の上話はできない。さっきの話は過去。真実を話そうものなら、憐憫の眼差しを向けられて「そっか、まぁゆっくりしたらいいじゃん?」と慰められるだけ。
約一年前まで、都内の大手商社で営業事務として働いていた。
新卒から働き始めて五年。事務とはいえ、営業の仕事もさせられた。そして、三年目から部長補佐まで任されて、私は毎日忙しさに身を粉にして働いていた。部長の出張も手配して、時には土日返上でゴルフ接待に付き添った。部長は人遣いが荒くて、時間外の突然の電話もしょっちゅう。おかげで家に帰っても携帯を手放せなかった。こういう人だから補佐になる人たちは一年もたなかった。指名された時に覚悟はしていたものの、仕事は深夜零時を回ることなんてざら。
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