エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「車で行くからな」
「わかった」
車ということは、パンツスタイルがいいかな。私は立ち上がると自室に向かった。
朔は夜八時前後に帰宅するけど、出社する時間が早い。だから、頑張って早起きして一緒に朝食をとる。それもあまりゆっくりできないから、長々とは会話ができない。送り出す身としてはやはり寂しいものがある。だから余計にひとりになるとネガティブ思考に偏るのかもしれない。
そして、朔が休みの日は必然的にテンションが上がるのも事実。人混みに行くのは、まだ気乗りしない。でも、朔とは出かけたくて、だらけていた身体が動く。
部屋着からオフホワイトのワイドパンツにカーキ色のカットソーに着替える。化粧もして寝癖でついた外跳ねを内捲きにアイロンのコテで直した。リビングに行くと朔も着替えを済ませていた。ネイビーのデニムに黒いシャツと同色のブルゾン。
「お前も軽く羽織るもの持ってこいよ」
と言われて、いったいどこに連れて行かれるのかと思いながら部屋からベージュのトレンチコートを引っつかんできた。
そこから車に乗せられて、二時間弱。着いた先に見えた大きな山に私はぽかんと口を開ける。日本一のその山は何度見ても美しく荘厳で、口が勝手に開いてしまう。
「朝だと休日でもまだ空いてるな」
朝のアウトレットモールはまだそこまで混雑していなかった。
「静岡まで来るなんて」
「こういうところのほうが広くて開放感あるだろ」
「まぁ、そうだけどさ」
朔の言葉に頷く。私は助手席でのんびりしていただけで、綺麗な富士山も見られて、自然に癒されて言うことなしだ。
「どんな服が好きなんだ?」
「えっと、最近カジュアルが多いかな」
前はいつもスーツとか、たまに出かける時は女性らしい綺麗めな服を着てたけど、もう全然着ていない。ヒールのある靴とスーツでかっちり固めていつもスケジュールと睨めっこしていた会社員時代。正反対にデートの時はひらひらと裾が揺れる膝丈スカートに白いシャツを合わせて、髪をちゃんとクルンと内巻きにした。少しでも相手に可愛らしく見えるようにしていた。
その時、あの浮気現場が目の前に浮かんでぐっと胸の奥が詰まる。
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