エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
彼女もアメリカからずっと交友がある。よく知った仲であるなら、彼女に話を持ちかけてもいいはず。あ、でも、美麗さんは自立しているし、契約婚なんてメリットがないのか。朔を好きじゃない限りは……。
と、脳内でひとり納得。
それからは何人か取引先の重役の人たちに朔が挨拶をするのに付き合い、庭の隅のほうで取ってきたオードブルを突いていた。
立食形式って苦手だな。食べにくいし。まぁ会話中心のスタイルなのだから無理もないか。私は、誰かと話すこともな……
「あのふたり」
「ひぇ!?」
いきなり耳元で聞こえた声に小さく飛び上がる。耳を押さえて振り向いた先すぐ玲奈さんが立っていてビビる。いつのまに近づいてきたのか。
彼女の視線は私ではなく、メインホール内で話をしている朔と里見さんに注がれている。『あのふたり』とは彼らのことらしい。
「ずっと怪しいと思っていたんです」
「は、はぁ」
「仲良すぎて。付き合いが長いとはいえ、工藤先生があんなに心許しているの里見さんだけですし。でも、里見さんは結婚しているから、工藤さんは片想いしてるんだなって思ってて」
「え?朔が?」
「はい、奥さんになったばかりの人に言うのは躊躇うんですけど……」
「さ、里見さんご結婚されてるんですか?」
「一年前くらいに。左手に指輪してたでしょ?」
私の問いに玲奈さんは何を言うかと自身の左手の薬指を指差す。全然、気づかなかった。愛らしい顔ばかり見ていて、細部まで意識していなかった。
「朔が里見さんを……」
「工藤さんは叶わない恋をしてずっと苦しんでいて、私がそこから助けてあげたいって勝手に思っていたんですけど、その必要もないみたいですね。あなたと結婚したってことは、ちゃんと吹っ切れたんだなぁ」
溜息とともに軽く空を見上げる横顔が心なしか寂しそうに見える。
「私じゃだめなのも、前からなんとなくわかっていたし。それなのにパパがしつこく工藤さんに言うからもう恥ずかしくて」
そう言って私を見る彼女の顔には苦笑が浮かんでいたけど、もう悲観の色はなくなっていた。
「工藤さんのこと幸せにしてあげてくださいね」
「は、はい」
私が頷くのを、満足そうに見つめてから彼女はホールのほうへと歩いていった。
予想外にいい子だった。そして、朔、めちゃくちゃ可哀想。
庭の隅に残った私は今までの経緯とさっきの話を照らし合わせる。
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