エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「あ、そうだ」
いいこと思いついたわと京子さんが手を合わせる。そして、にっこりと微笑んだ。
「新婚なんだし、あなたたち一緒の部屋にしたらいいじゃない」
「え?」
「寝室も一緒のほうが仲が深まるわよー。こっちが朔の部屋?」
京子さんは朔の部屋のドアを遠慮なく開け放つ。
「あら、ベッドも広いじゃない。ふたりでも十分……」
「だめです!」
「なぜ?」
「え、えっと……私歯ぎしりがすごくて!だから、別室じゃないと!」
「あら、そうなの?」
「はい!安眠妨害になりますから!」
力強く頷く。ついさっき一線越えかけたのに、一緒のベッドでこれから眠るなんて、眠れるわけがない。
朔は必死で言い訳を連ねる私を傍観していたけど、やがて肩で大きな息をする。
「もう、いいよ。さっさと家決めて出てってよ」
朔は「風呂入り直してくる」と怠そうに出て行く。きちんと閉じられた扉に京子さんは悩ましげな視線を送った。
「もう、息子は大きくなったらひたすら冷たいだけね。娘が欲しかったから柚ちゃんと結婚してくれてよかったわ。あ、ケーキ買ってきたの。食べましょう」
次の瞬間にはもう笑っている。思い出した。京子さんはカラッとした太陽みたいな人だった。長年会っていなくても全然変わっていない。
でも、義母との三人生活うまくやっていけるのかな。朔ともなんだかよくわからないことになって……。
朔には好きな人がいる。きっとあれは……性的欲求からくる衝動だろう。昔、関係を持った相手だから……だけの感情だと思う。
「柚ちゃ~ん、お茶の葉どこ?」
「あ、はい!出します!」
考えたいことはいろいろあるものの、今は目の前の義母を優先しなければ。嫌われたら生活するにも息が詰まるどころの話ではなくなる。
私はパタパタとスリッパを鳴らしてキッチンへと向かった。
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