エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
怒らせる気はないのに。いつもどおり振る舞いたいのにできない。私がもっと器用だったら……。
すっかり食欲も削がれて、半分ほど残った皿にラップをした。また昼に食べよう。
いつも一人だと昼ごはんは適当だ。最初の頃は抜いたりしていたら、朔にバレてちょっと渋い顔をされた。私の食の細さに何も言わないながらも心配は心配なようだ。それからは私も少しでも食べられる時に食べるようにはしている。
さっきの言い方だと、キスしたのが嫌だったみたいに捉えられたのかなぁ。
気持ちを悟られないようにしたのが、かえってツンケンした態度に見えたのかもしれない。
帰ってきたらフォローしないといけない。朔が悪いわけではないのだから。
洗濯機を回しにいこうと廊下に出たところで、呼び止めるようにダイニングテーブルの上のスマホが鳴った。戻って画面を覗き込むと『朔』の文字。慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
「ごめん。俺、部屋に封筒忘れてないか?」
「ちょっと待ってね」
言われて朔の部屋に向かう。京子さんが来てから朔への部屋に自由に入ってもよくなった。新婚なのに、お互いの部屋に立ち入り禁止なんて不自然すぎる。
「あるよ。机の上」
部屋の奥にある綺麗に整頓されたデスクの上にぽつんとA4サイズの封筒だけがある。
「わかった。取りに帰るから」
「今、会社?持っていこうか?」
「いや、そこまで急ぎでも……え?何?お前が取りに行くの?」
電話の向こうで朔が誰かと会話している。誰だろうと思っていたら、すぐに朔の声が聞こえてくる。
「里見がそっち方面に用事があるからついでに取りに行くって」
「え!?里見さん!?」
「ああ、前に会ったことあるよな?渡してもらえばいいから」
「ウ、ウン、ワカッタ」
「なんかカタコトだけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」
「じゃあ、頼む。一時間後くらいに行くらしいから」
朔との通話を切り、 立ち尽くす。
さ、里見さんがうちに来る!
朔の想い人!ライバル……いや、一方的過ぎて適切じゃない気がする。っていうか、この際それはどうでもいい!
朔の妻として、お飾りなりにも整えなければ!だらしない格好で対面して、朔の印象まで下げられない。
「ああっ、どうしよ!スカート?いや、大人っぽくパンツスタイル?あ、その前に掃除もしないと!お茶も用意しなきゃ!」
ひとりでギャーギャー言いながら、まずリビングの掃除に取り掛かる。一時間後と言っていたから、あまり時間はない。
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