客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
二葉は自分が話しかけられているとは思わず、辺りをキョロキョロと見回す。しかしその男性はしっかりと二葉を見据えていた。
「チェックインはお済みですか? 宜しければご案内しますが」
何故そんな人が私に声をかけるんだろう。どう見たって高級感はゼロだもの。二葉は慌てふためきながら口を開く。
「あ、ありがとうございます。連れが今チェックインをしているので大丈夫です」
「そうでしたか。何かご不便がありましたらお声掛けください」
そして男性は笑顔で頭を下げると、立ち去った。
しかし二葉は妙な緊張感が抜けず、心臓の音が耳にまで聞こえる。今のはなんだったんだろう……。他にも宿泊客はいるのに……。
その時、チェックインを済ませた匠が戻ってくる。二葉の隣に腰を下ろすと、彼女の様子がおかしいことに気付く。
「何かあった?」
「えっ、あっ、なんかね、ホテルの方に声をかけられたの。一人でいると思われたのかな? だから連れがいるから大丈夫ですって伝えた」
「……ちなみにどういう人だった?」
「ピシッとしたスーツの男性の方。三十代後半くらいだったと思う」
二葉が答えると、匠は怪訝そうな顔で口元を押さえる。
「匠さん?」
「あっ、ごめん」
そうか、ここまで来たのか……二葉に声をかけた人物が誰であるかはわかった。でもいなくなったのなら考えても仕方ない。
「じゃあ行こうか」
匠は二葉の荷物を持つと、エレベーターへと歩き出した。