客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

 気分良く駅に向かって歩いていると、突然後ろから誰かに手を掴まれた。

 驚いて振り返った二葉の目に映ったのは、一人の女性だった。年齢は三十前後くらいだろうか。短い髪と、フェミニンなベージュのワンピース、アイボリーのストール。大人の雰囲気を身に纏うきれいな人だった。

「あの、ちょっといいかしら」

 その雰囲気とは裏腹に強く握る手。突然のことに二葉は驚いて警戒する。

「何か御用でしょうか……?」

 すると彼女はにっこり微笑む。この女性が誰だかわからない二葉は、その笑顔が怖かった。

「あなたとお話がしたいの。副島匠について……」

 彼女の笑顔の中に見えた鋭い眼光に、二葉の体が震えた。

 副島匠について……そう言われてハッとした。まさか……。

「あの……どちら様でしょうか?」
「私は山内(やまうち)真梨子(まりこ)。彼の高校時代の担任だったの」

 二葉は背筋が凍る。きっとこの人が《《先生》》だ。

「少しだけ付き合ってもらえるかしら?」
「あの……何故私のことを?」
「……そのことも含めてお話したいのだけど」

 彼女の手は二葉を掴んだまま離そうとしない。

 どうしたらいいんだろう……。きっと本当は断るべきなんだと思う。でもそれでいいの?

 六年前、匠さんはこの人に苦しめられた。そして今もそれは続いている。

 私は……私は匠さんを守りたい。辛い思い出から救い出したい。

 二葉は意を決して顔を上げる。

「わかりました」
「あら、話のわかるお嬢さんで安心したわ」

 不敵な笑みを浮かべる女性に、二葉は怯みそうになる。しかし心を奮い立たせると、それに負けないような笑顔を向けた。

「いえ……私は匠さんの彼女ですから」

 女性の顔が引きつる。

「……じゃあ行きましょう」

 二葉は緊張しながら、女性の後についていった。
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