客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜

 その二人の様子を見ながら、真梨子は戸惑い、目が泳ぐ。事態が彼女の想定外に進み始めていることに、明らかに動揺していた。

「だ、だって……あなただって私といたいって……愛してるって言ったじゃない……!」
「言わされたんだ、あなたに。俺の言葉は全てあなたの誘導によるもの。本心なんて言えなかった」

 匠はテーブルに置かれた真梨子のスマホに気付き、パッと奪い取る。

「あなたが脅しの材料にした写真、確かに俺へのダメージも大きい。でもあなたの方がご主人にバレたらまずいんじゃないですか?」
「なっ……!」

 匠の言葉を聞いた真梨子は、怒ったような表情を浮かべた後、悲しそうになり、涙を堪えるような顔になる。

 それを見ていた二葉は、その表情の意味がわからず胸に引っかかった。

「返して欲しかったら写真を消してください。俺はあなたのものじゃないんだ。もういい加減、解放してくれよ……」

 真梨子は悔しそうに下唇を噛むと、スマホの暗証番号を伝える。匠は言われるがままスマホを操作して、写真を消去した。

「これでお終いだと思わないでね。あなたは一生私を忘れられないんだから。せいぜい私を裏切ったことを苦しむがいいわ」

 その言葉に二葉は違和感を覚える。そっと匠の体を押して、真梨子を見つめた。

「先に裏切ったのはあなたでしょ? 旦那さんがいるのに、匠さんとも関係を持った……」

 真梨子は荷物を持つと、そのまま席を立ち、走り去ってしまった。その後ろ姿を匠と二葉は、呆然と見つめるしか出来なかった。
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