客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
「俺、先生との行為の間、顔を見ることが出来なかったんだ。目を瞑ったり、顔が見えないようにしたりしてさ。やっぱり罪悪感というか、自分がしていることを肯定したくなかった。だから秩父で二葉を抱いた時、二葉の顔を見ながら体を重ねて、艶っぽい声を聞いて、何度もキスをして、初めて満たされた……」
そういえばよく『顔を見せて』って言われた気がする。そんな意味があったことに二葉は驚いた。
「でもあの時って、二葉は俺と浮気だったんだよね。先生と同じシチュエーションなのに、二葉にはなんか背徳感からか、すごく燃えちゃったんだ」
「……私、浮気とかするような性格じゃなかったのになぁ。匠さんだからしちゃったのね。きっと私にとって、たった一人の浮気相手だわ」
「……俺だって、毎日写経書いて、巡礼を好んで、しかも仏女なんて特殊な趣味の二葉だから夢中になったんだよ。君がいなかったら、俺は今も囚われていたかもしれない」
すると匠の手が、髪の上を滑り降りたかと思うと、二葉の首筋を通って顎を持ち上げる。
「二葉、顔見せて」
そして何度も何度もキスをする。ゆっくりじっくり舌が絡み、二葉の唇から思わず熱い吐息が漏れた。
「俺は六年前のあの日から、ずっと二葉に囚われているんだ。だからもう絶対に離さないからね」
再び唇を塞がれると、二葉はうっとりと目を閉じた。
考えなければならないことはたくさんある。でも今は匠の真っ直ぐな愛に酔いたかった。