だから今度は、私がきみを救う番



『原』と書かれた表札の下、ポストのところには家族全員の名前が書かれてある。

男の人の名前がふたつと、女の人の名前がふたつ、それから一番最後に原くんの名前があった。

五人家族なんだろうか。



原くんが、玄関の引き戸に手をかける。

鍵が閉まっているようで、引き戸はガタンと音を立てて止まった。



「ばーちゃん、いねーのかよ」



原くんは玄関を開けずに、家の脇に止めてある自転車の方へと歩いていった。

自転車の鍵はささったまんまだ。



うちの中学の校章のシールが貼られた、シルバーのママチャリ。

原くんは自転車のスタンドを上げると、ちょいちょいと手招きをした。



「おいで」



後ろの荷台を指されて、乗るように促される。

スカートを巻き込まないように束ねてから、恐る恐る荷台に座った。



「よっしゃ、高屋と二人乗り!」



原くんがサドルに腰をおろして、ペダルをゆっくりとこぎはじめる。

車輪が回転しはじめて、私たちは風に乗った。



「しっかりつかまってて」

「……うん」



一瞬腕を引っ張られて、腰の方へと誘導される。

私は体重いっぱいを原くんに預けて、両手で彼の腰に抱きついた。



固くて骨っぽい、男の子の身体。

爽やかないい匂いがする。

香水か何か、付けてるのかな。



こんなに密着するのなら、次は私も香水をつけてこよう。

そう思った。


< 67 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop