「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「ーでは、お疲れさまでした!又会社で!」

「はい、これからよろしくお願いします!!」


時刻はもう結構遅くなり、居酒屋の人数も大分減ってきた。私もあちこちから お酒を勧められ、自分が結構酔っているとわかった。

頭が少し痛いけど、いい感じにアルコールが体をめぐり気分がよくなる。流石にこれ以上お酒を飲むのは危ないと思い、私は良い所で挨拶して居酒屋を後にした。

マンションまでは少し距離があるけど、酔いを覚ますため歩くことにした。でもなぜか地面がゆらゆらして、上手く歩けない。何、この世界にも地震とかあるの?そう思うとなんだか笑えてきて、私はいかれた人のようにニヤニヤしていた。そして突然ー


「あ、あれ…」


ゆらゆらしていた地面がいきなり顔に突っかかる。え、こういうこと、ある?頭が混乱する中、私は近づく地面を避けることもできず、そのまま目を閉じてしまった。

間もなくやってくる痛みを想像しながら、そのまま待つこと約数秒。予想外の感触に気づいた私は、ゆっくりと目を開けた。そして、目の前には…。


「あ…」

「君。そこまで酔って、一人で帰れると思ったのか?」


驚くことに、私はあの謎のイケメンの腕の中にいた。とても近い距離、そう、お互いの息が当たるくらいの距離で、私はじっと彼の顔を見つめた。アルコールに侵食された目で見直しても、やはり彼の顔はとてもキレイだった。ぼーっとする私を起こすかのように、彼がもう一回私に聞いた。


「しっかりしてくれ。立てるか?」

「え…はい。あの、すみません、でもどうして…」


「どうしてあなたがここに?」と聞きたいけど、上手く話せない。幸い彼は私が何を聞きたかったのか分かってくれたようで、こう答えてくれた。


「君が一人で出るのを見たけど、フラフラしていたから。一人で歩かせるのは危ないと思ったので、付いて来た」

「あ…そうだったんですか。すみません、でも私、一人で行けますので!」

「無理だろ」

「だーいじょうぶですっ!お気遣いありがとうございました!!!」


そう叫んで、私は又一人で歩き出した。誰もいない路地裏に、私が履いていたパンプスの音だけが響く。

さっきのようにまた地面が攻撃して来ないよう、私は両手を前に出して意識を集中した。それでもやはりゆらゆらする周りを止めることは出来ず、そのまま数歩前に進んだ時、今度はイケメンさんが私の腰に手を回してきた。顔を上げると、彼が心配そうに言った。


「家はどこだ?近くまで送ろう」
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