俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
 数日後、私が新しく配属されたのは、一般病棟。

 病室が足りなくて、一部屋に8
〜10人ほど。

 ベッドを無理矢理ギュウギュウと、詰め込んでいて、患者さんの病状もバラバラだ。

 空気の入れ換えの為、窓や、ドアは開放されているので、圧迫感はそれ程ない。

 小さな子もいて、親に会えなくて寂しがるので、手を握ってあげたり、本を読んであげたりと、やる事は山程あって、看病以外の仕事も多く、かなりの忙しさだ。


 お節介な現地スタッフが、あれから毎日、アイシャさんが二人の病室、主に残ったアミールの元に通っていて、仲睦まじく過ごしていると、教えてくれた。

(仲睦まじく、か…… いいなぁ、アイシャさん…… )


 気になって、一度様子を見に行ったが、丁度アイシャが病室に入る所で、彼女はアミールに腕を絡ませていた。

「一花!!」

 煌びやかな笑みで、ドアを開けようとしたアミールが、ゴフォ、ゴフォッと胸を押さえて咳き込んだ。

「あっ!」

 慌てて駆け寄ろうと、手を伸ばした私の手の前で、

「ごきげんよう」

と、勝ち誇った顔を向けたアイシャが、パタンとドアを閉めた。

「ほら、無理しちゃダメよ。 私がお水飲ませてあげるから」

「…… ああ…… 」

「寒くない? ね、私にくっついていれば、暖かいでしょ」

 病室からは、寄り添い、尽くすアイシャの弾んだ声が響いてきた。


 アミールの為に何もしてあげられない、自分がもどかしくなる。

(仕方ないわ……、私はただの看護師…… 。 仕事として、彼の看護をしてたまでだもの…… )

 ハァーッと小さな溜息を吐く。

(…… これじゃ、子供の頃、施設の子達を羨ましがったのと同じじゃない…… )

 

 「今日は、入浴介助すると言っていた」
 「ランチは彼女の手作りだ」
 「夜も心配で病室に泊まっている」
 「退院後、すぐに入籍するらしい」

その後も現地スタッフが私の元へ、病状? イヤ、もうコレは、ラブライフ? を、伝えに来る。

 アミールの病状が、知れるのは嬉しいが、二人の楽しそうな様子を聞くたびに、モヤモヤとしたものが、身体の奥から湧き上がってくる。


(ヤダヤダッ、何これ全然消えない! 気持ち悪い! ……疲れてるのかな私…… )


 正体不明な初めての感情に振り回され、気持ちが沈む。


 それでもやっぱり、ふとした瞬間に、気がつくとアミールの事を考えてしまう。

(会いたいな…… )
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