俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
別れ

「ね、ね、ね、相葉ちゃん聞いた?」

 一緒に看護師として派遣された柴田さんが、ニュース、ニュース、大ニュース! と声を掛けてきた。

 彼女とは同期で、同じ寮住む仲間だ。
飾らない性格で話しやすい。

「何かあったの?」

「こっちで流行しているウィルスが、全世界に急激に広がってるらしくて、海外への往来を暫く禁止するんだって。 日本も入国制限かかるから、緊急帰国命令出がたんだよ」

「帰国?! いつ?」

 思ってもみなかった事態に、驚きを隠せない。

「三日後だって」

 一瞬、思考が停止する。

「はぁ?!」

「いくら何でも、急すぎるよね」

 柴田の言葉に、コクコクと頷く。

「でも、これを逃したら、今度いつ帰れるか、全然見通しが立たないって言ってたよ。 それだけ、このウィルスが怖いって事なんだよ」

「そう、なんだ…… 」

(帰国…… か。 日本に帰ったら、今よりもアミールに会うのが、難しくなる)

 日本に帰れるのは嬉しい筈なのに、帰りたくない自分がいる。

「大丈夫? 今診てる患者さんに、気になる症状の子でもいるの?」

(気になる子…… )

柴田の言葉に、やっぱり浮かぶのは、アミールの顔。

(…… なんでここでアミールが浮かぶの? これじゃまるで私…… って、え?…… え?!)

 自分の気持ちに気づき、驚きで目をこれでもか、と大きく見開き、片手で口元を思わず押さえる。

(……違う、違う。 女神なんて、嬉しい事言われて頼られて、長い時間一緒にいたせいで勘違いしている、だけ、だよ、ね…… )

 自分に問いかけるが、心が否定する。

「……好き……?」

 声が微かに震えしまう。
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