まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~






光を感じて、瞼を開ける。

すると、真っ先に目に入ってきたのは真っ白な天井だった。


「……珠緒?」


次いで、こちらを覗き込む薄茶の瞳。

その目尻には、キラキラと雫が溜まっていた。

堰を失ったように、その涙はぽつりぽつりと、雨さながらに私の頬に落ちてきた。


「……………このえ…く……」


名前を呼び終わる前に、彼の細い指がこめかみ近くを滑った。

頭の傷を確かめるように、髪を幾度か梳いた後、今度はその手が頬を撫でた。

壊れ物を扱うように、優しく、そっと。


「………」


どこかぼんやりとした様子の彼は、涙をこぼしながら私に触れる。


「珠緒………。珠緒」


雨に打たれながら向かい合った時とは立場が逆転して、今度は彼が私の名前を呼び続け、


「……っ」


そのまま覆いかぶさり、顔を近づけ唇を寄せてこようとするので、慌てて手を滑り込ませて阻止した。

陶酔したような彼の瞳を見つめ返しながら、私は言った。


「あの、近衛くん?どどど、どうしたの?」

「………」


一度動きを止めた彼は、自らの唇に触れた私の手を一瞥すると、その手に自分の手を重ねる。

そして、


「っ」


するりと、恋人同士のそれのように。自然な仕草で指を絡めた。


「こっこここ」


鶏のように言葉を失くした私に向け、彼は静かに微笑んだ。

長いまつ毛に縁どられた、伏し目がちの瞳。

赤く薄い唇。


色気。色気がやばい。言っちゃ悪いが、大人なことをしていた時のまどか、そのものだ。

だからこそ、艶やかなその表情に似合わない、流れ続ける涙が余計に胸を締め付けた。


「……まどか?」


思わず名前を呼べば、夢見心地だった彼の瞳に徐々に光が蘇ってきて、


「たま……」


ぽかんと、頬に涙を伝わせたまま呟いた。


「目、覚め………」


再びぼたぼたと、涙の量を増やして私に抱き着いてきた。



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