まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
私の下敷きになったまま来訪者の男子生徒に喚き散らしているまどかが居た堪れなくて、私はそっと彼の上から降りて、ちょこんと床に正座した。
「隠さなくていいんだ。……いや、俺だってまあ?お互いがそんなに血まみれになるまで、一体どんなあんなことやそんなことをしたのか気になる所ではあるが……」
「お前の口縫い付けてやろうか。あぁ?」
瞬間移動と見まがう速さで起き上がって、入り口にいた彼の首根っこを押さえたまどかは、過去の彼からは信じられないほど、どすの利いた声で詰め寄った。
相手の男子生徒は首を詰められているのに取り乱した様子もなく、全開になっているまどかの胸元に視線を落として肩を竦めた。
「まぁ取り敢えず冷静になれよ。早く前留めねぇと、外から丸見えだぜ?」
「!」
はっとなったまどかが、まだ開いたままだった扉に背を向け、頬を赤く染め慌てて言葉の通りボタンを留め始める。
その間に名前も知らない男子生徒はこちらへと歩み寄ってきた。
身じろぎもせず、正座したまま一部始終を見守っていた私は、そのまま視線を彼へと向ける。
やがて、目の前に立った男子生徒と目が合い、じっと見つめ合う。
彼の口が開いた。
「はじめまして。佐々木大和です。一応、あいつの幼馴染。学校もクラスも一緒なんだ」
にっこりと邪気のない笑顔を見せ、彼は手を差し伸べてくる。
「君の制服もホラー映画ばりに血まみれだけど、見たところ同じ学校の子だよな」
彼の行動に驚き、反射的に手を握ろうとしたが、血まみれ……以前に触れたら吃驚させてしまう。
動きを止めた私を見て、彼は怪訝そうに首を傾げた。
私は鼻を袖で押さえたまま、代わりに言った。
「…………白峰珠緒……です」
ぺこりと小さく会釈すると、彼は頬を緩ませた。
そして何のためらいもなく、私の頭に手を乗せてくる。
(!?)
「なっ!」
扉の方からこちらの様子を見ていたらしい、まどかの声が聞こえた。
私が頭一杯にはてなマークを浮かべていれば、男子生徒――佐々木君は腰を屈めて、目線を合わせてくる。
そのまま包帯部分を避けながら、両手でわしゃわしゃと髪を撫でてきた。
満面の笑みで。