京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「朔埜に一つ、人間臭い感情が増えた事」
「……?」
「あれは、受け入れるのは得意なんだ。……必死に抵抗しているのは、あなたが初めて」
「は、はあ……」

 褒められているのだろうか。
 にやりと笑う水葉に朔埜の顔が重なる。
 こんな時だけど、ああやはり血縁者なんだなあ、なんて思ってしまう。

「ホールに着いた」
「あ」

 散歩は終わったようだ。
「後はあなた次第、かな」
 その言葉に史織は水葉を見上げた。
 目を細めるだけで、全て見透かされるように感じるのは何故だろう。
「朔埜はあそこにいるよ、話しておいで」

「あ……ありがとうございます……」

 史織が聞いて良かった話だったのだろうか。
 朔埜の事情。けれど聞けて良かったと思う自分がいる。

 朔埜が好きなのだ。彼について知りたい。
 そして自分の状況も説明したい。これ以上迷惑は掛けたくないから……

 水葉の厚意に頭を下げ、史織はホールに足を向けた。


「もう一つ、厄介なものに絡まれるかもしれないが……それも朔埜にもあいつにも、必要な事だから……」

 その背中を見送り水葉はぽつりと呟く。
「すまんな、史織さん」
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