スノー&ドロップス

累愛はおぼろげで 〜鶯祐side〜

 レースのカーテンから入る光。まだ明るさを残す空の顔を教えている。静かな自室にカリカリと響くシャープペン芯と紙が擦れる音。

 カッターシャツと紺ズボンの制服姿のまま、僕は床にあぐらをかいている。その隣で、ピンクベージュのウェーブショートをふわふわとさせて、どこか落ち着かない様子でいる日比谷(ひびや)風架(ふうか)
 彼女は同じ塾にも通う高校のクラスメイトで、今一緒に宿題をしている。

 小さな溜息を漏らし、僕はシャープペンを握る指と頰杖を付いていた手を下ろした。

「鶯祐、もう終わったの?」

「うん」

「じゃあ、ここ教えてよ」

 いつもの活発な雰囲気はなく、潮らしい声を出して僕の傍に寄ってくる。肩と肩が触れ合うくらい近付いても彼女は離れようとはしない。
 普段なら即座に避ける態度を取るが、今の僕はそうしない。

「これは、こっちの公式に当てはめて……」

 触れ合っている体から、彼女の(ほて)った体温が伝わってくる。

 問題の解き方を教えながら、なんとなく横に視線を落とした。見えそうで見えない無防備に開かれたブラウスの胸元。物思いにふけるまぶたと桃のように淡く染まる頬。

 おそらく僕の説明する声は聞こえていない。彼女の心は、今ここにあらずと見える。
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