スノー&ドロップス
「ねえ」

 しばらくして、(くる)まっていた布団が藤春雪によって(めく)られた。しゃがんでいるのか、目線の高さが同じだ。クリっとしたガラス玉のような瞳が覗き込んでくる。

「いつまでクローゼットに入れておく気? 真っ暗で不気味なんだけど」

「……あ、ごめんなさい」

「今、俺の存在忘れてたでしょ」

 ふてくされた声を出す彼に、もう一度謝りの言葉を口にする。

 藤春さんが男子だと知ったら、そうにしか見えなくて、動揺してしまう。

「さっきの……前に駅で会った(とう)高の人だよね」

 隣に座る彼から、少し距離を置く。

 あの時のこと、覚えていたんだ。忘れてくれていたら良かったのに。

「カレシじゃないって言ってたけど。兄妹だったんだ?」

 緊張の息が渇いた喉を通る。私の動揺を感じ取って、兎のような愛らしい顔は企みを含んだ目に変わるの。

 急に視界が塞がれ、鼻の頭が触れ合っている事に気付く。氷枕のような温度が額に伝わってきて、さらさらと色素の薄い髪が私の頬に落ちてきた。

 触れそうで触れていない唇。冷気のような吐息がかかる。頭がくらくらする甘い匂い。
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