黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
アラームが鳴る少し前に目が覚めてしまうのが大人になった証拠だろうか。スマホを手に取り今日のニュースを見て見ながらアラームが鳴ると同時に音を止め、体を伸ばして起き上がる。

顔を洗い、ドライフルーツの入ったオートミールに牛乳を加え、スマホでニュースの続きや天気をチェックしながら朝食を取る。

時間軸が横に伸びた天気予報には灰色の雲のマークが一列に飽きもせず並んでいる。
青い傘のマークが無いだけでもまだましかと思いながら食べ終わったお皿をシンクに置いて水を垂らし、出勤の準備を始めた。

ナチュラルメイクに黒髪を束ね、眼鏡をかけて、目立たない可も不可もない服を着た。
この容姿と営業を支える仕事内容から影では黒子ちゃんと呼ばれている。

ちなみに名前には『黒』も『子』もつかない。

私の名前は、二条(にじょう)双葉(ふたば)
大手商社の第3営業部で営業事務をしている。
毎日コツコツをモットーに仕事をこなし、いつの間にかとっくに三十路を越えていた。

誰もいないオフィスに一番乗りで出社し、届いているメールのチェックを始めると優しさだけが取柄の課長が出社してきた。

「おはようございます」
「おはよう」

課長の後に続々と社員が出社してくるが、出社してくる誰もがキラキラしている。眩しすぎて目を合わせる事すら恐れ多い。

「早速だけど、これよろしくね」

始業のチャイムが鳴ったのと同時に机の上に、どっさり置かれた紙の束。

課長、何故こんなにも溜めるのですか。

もう少しこまめに持ってきてくれると助かるのにと思いながらも私はいつも通りに黙々と一つ一つ画面に数字を入力していく。

「二条さん、アップコスメからお電話です」

言われて電話に出ると新プロジェクトが立ち上がったから製品資料を適当に見繕って送って欲しいとの依頼だった。

普通なら営業へ直接依頼して欲しい案件だが、一昨年から担当になった営業の駒田(こまた)君とは話が噛み合わないとのことで重要な要件は必ず私に依頼してくる。

駒田君の売上の一部は私の成果であると言いたいところだが、課長も気付いてはいるものの入社2年目の若手社員である駒田君には厳しくできないというジレンマを抱えているのでそっとしておこう。

駒田君に電話で依頼された内容を伝え一緒に製品資料を見繕い、駒田君からメールを送ってもらった。次回訪問提案するための提案書類は私が作り説明を入れて駒田君に送った。

今日は8時に仕事を切り上げ、それから1時間電車に揺られながら帰宅した。

外で食べる事すら億劫な私は帰宅途中のスーパーで割引シールが貼られたお弁当を買い、帰宅直後にシャワーを浴びて、寝間着に着替え、頭にタオルを巻いて、温めたお弁当を前にいつもの至福の時間を過ごす。

そう言えば、来週から新しい人が入ってくるって言ってたな。
スマホ画面を操作しながら気分にあった漫画を探す。

『お酒によって翌日目が覚めると隣には知らない男が! そして会社に出勤するとそこに現れたのはーー』というあらすじに惹かれ、お試しページを読んでみる。

面白そう。

私は早速読み始めた。
箸を止めて漫画の世界に没頭する。
これなら温めなくてもよかったのでは? と毎回思うのはご愛嬌だ。
< 2 / 92 >

この作品をシェア

pagetop