黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
そして、1週間かけて読んだ漫画が現実に!! 

なぁんて事は現実には起こらない。

月曜日に出社するとそこには見たこともない若い男の子がいた。
今時の子は何故こうもイケメンが多いのだろうか。それともこの部署の営業は顔採用なのだろうか。

朝礼で部長がみんなにイケメンを紹介した後、課長から「八重樫(やえがし)君には、二条さんがサポートしてくれている客先を回す予定だからよろしくね」とわざわざみんなの前で宣言された。

先々月に突然辞めた社員が担当していた先を課長と私でなんとか回していたが、ようやく解放されるのだ。

どうか今回はまともな営業でありますように。そして突然辞めるのだけはなしでお願いします、と心の中でお祈りする。

「二条さん、よろしくお願いします」

八重樫君と言われた男の子はその端正な顔に綺麗な笑顔を浮かべて、はつらつとした挨拶をした。

ま、ま、眩しい!

だが、ここでひよる私ではない。

冷静な声で「よろしくお願いします」と軽く頭を下げた。

周りの女性達からは羨ましがるヒソヒソ声が聞こえてくる。

そんなに彼とお仕事したいのなら、私の仕事をお裾分けましょうか?

声にも顔にも出さずに心の中でつぶやいた。

社会というのは不思議なもので仕事をすればするほど、こなせばこなすほど仕事は増えていく。仕事に時間がかかる人は仕事が増えずに残業代が増えるという逆転現象は未だに理解できていない。

まぁ、そんなことをいち平社員の私が言ったところでどうにもならないのでぐっと堪えて今日も一日頑張りますか。

あれから1週間、八重樫君には課長がつきっきりで営業のイロハを教えてくれた。きっと突然辞める子や駒田君第二号を作らないためにも頑張ってくれたのだろう。

そして、人当たりがよく爽やかな笑顔を振りまく八重樫君はこの1週間で次々に女性達の心を鷲掴みにしていった。

『八重樫君の歓迎会の場所です』と可愛い若手の女性社員が送ってくれたメールが一斉送信で届いたのは歓迎会の当日だった。
いかにも若者セレクトなお洒落な古民風イタリアンレストラン。

もう少し早く教えてくれればちょっとは雰囲気に合う格好をしたのにと自分の服を確認した。

まぁ、いっか。

可も不可もない服装はこういう時には役に立つ。

「では、八重樫君の今後の活躍に乾杯!」

5分ほどダラダラと続いた部長の挨拶に必死で堪えた社員達はシャンパンを一気に飲み干した。

ビールではなくシャンパンで乾杯とは、なんてお洒落。

今日は結婚式か! と心の中でツッコミを入れておく。

余ったシャンパンの争奪戦を女性陣が繰り広げ、おじさま方は次々にビールを頼んでいく。シャンパンにありつけなかった人々はハイボールやワインなど思い思いの飲み物を頼んでいたので私も波に乗り遅れないように赤ワインを何とか注文した。
< 3 / 92 >

この作品をシェア

pagetop