黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
次の週、私は髪を整え、しっかりとメイクをして眼鏡を外し、コンタクトをつけた。
服は30代女性に適したオフィスカジュアル。

「それで行くの?」

「うん」

「そっか」

私の外見なんてそんなに気にしていないとでも言わんばかりに八重樫君はそれ以上何も言わなかった。

電車に乗ると周りの反応は違う。いつもは遠慮のない男性たちが押し合いから私を庇ってくれるかのようこれでもかと体幹を披露している。

美人に優しい社会なんだと改めて思う。
この私がいつも乗ってくるあの黒子なんて考えてもいないだろう。

会社に着くと部長は「おはよ……」と言葉を詰まらせた。

「おはようございます。黒子はやめました」

そう笑顔で言うと、部長は「そ、そうか。黒子な君も好きだったけど、いいんじゃないか」としどろもどろに答えた。

課長はのほほんとして「今の若い子は凄いね」と化けるねとは言わずに笑って席についた。

女性社員は二度見三度見した後に廊下に出てみんなで噂をしているようだ。

「え? うそ、化け過ぎでしょ」と遠慮のない言葉はもちろん駒田君。

「マジ普通に綺麗なお姉さんなんですけど、黒子感ゼロってか、主役感すらあるんすけど、マジなんなんすか?」

そう言ってくれたのでまぁ、良しとしよう。

「おはよう」

笑顔で私に挨拶してくれたのは八重樫君だ。

「おはよう」

私も笑顔で挨拶した。
すると八重樫君は私の頭を撫でてチャイムが鳴ると同時に席に着いた。

女性社員は見逃さなかった。
「ちょっとイメチェンしたくらいで何よ」
「厚化粧のくせに」
「あのくらいなら私だって変わってるわよ」
「何今頃デビューしてんの? ダッサ」
そんな言葉があちこちから聞こえてきた。

男性社員もドン引きだ。

「あの、無駄口叩く暇あるなら仕事してくれますか? それと、もう私、会議後の片付けしないんでちゃんと若手で割り振ってくださいね」

「はぁ? 何今更、若手だけにとか最悪」

入社3年目の子が口を言葉した。

「今更……ですよね。じゃあ、みんなで平等に割り振りましょう。片付けだけでなくお仕事も」

それは仕事が増えることを意味している。
雑用が若手に任されているのはそれだけベテランに仕事が多いからだ。
でも、それに文句を言うのならそうするしか無いだろ。

「いえ、いいです。若手で割り振ります」

「ありがとうございます。ああ、あと、この格好毎日だと面倒なので明日からまた黒子に戻りますが、デートはこのスペック維持なのでご安心を」

そう言って仕事に戻ると八重樫君が私の席まで来て椅子の背もたれに手を置いた。
なんだろうと顔を上げると八重樫君が男性社員を見て言った。

「ちなみにそのデート相手は俺なんで、手出し禁物です」

ば、馬鹿かこの男は。
そこはあえてオブラートにしたんじゃ無いか。
悪戯な笑みを浮かべた八重樫君と目が合う。
真っ赤な頬に手を添えられる。

「ちなみに俺は黒子ちゃんも可愛いと思ってるんで、どちらでも大歓迎です」

八重樫君は私の手を取り、甲にキスをした。

今日も溺愛が止まない八重樫君に困ってます。
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