帰り道、きみの近くに誰かいる

それから毎日、廉は学校帰りに病院へお見舞いに来た。廉が訪ねにくる夕方ごろは莉子は深く眠って休んでいる時間なのだと莉子の母に教えてもらった。
だけどこの時間しか会いに来れないため、眠っている彼女を見る毎日だったが、廉にとってはそれだけでも充分だった。

彼女の寝顔は綺麗だった。眠っている彼女が息をしているか度々心配をして、少し体が動くと安心をするという繰り返しだった。

あの日、事件について話をすると約束をして、それから莉子とは話せていない。どんな事件だだったのか、そして事件を知っている上でなぜ莉子に近づいたのか、直接顔を見て話さなければならないと思っていた。だけど、彼女が起きている時にタイミング良く話せる時がなかった。

その代わり、廉は当時話せなかった莉子の父の最期について、初めて莉子の母に話した。そのような機会が取れるなんて数年前は思いもしなかった。


今回の通り魔事件は、自分が莉子と関わったことで莉子が巻き込まれたようなものだった。あの時、彼女に夜道を走らせた原因は自分だ。廉は悔やんだ。莉子とは関わらない方がいいのではないかと思い始めた。それほど、血を流して倒れている莉子の姿を見たのは廉にとってショックだった。

彼女に近づいた理由の目的が見失いそうになるほどだった。もう近寄ってはいけないような気がした。自分自身の行動を悔やんだ。もう彼女を傷つけませんように。
彼女との関わり方をどうしようか自問自答を繰り返して考えた。

廉はその度に自分を追い詰めていく。

冬季の花火大会は当日まで残りわずかの日数だった。一緒に行こうと約束したお祭り。
一緒に行きたい。どうしても行きたかった。

だけど、もう、無理だ。廉は一つの決断をした。


ある日、廉はいつも通り学校終わりのお見舞いに来て莉子の様子を見た後、莉子の母に手紙を渡した。

その手紙には「莉子ちゃんへ」と書く。どうか莉子に届きますようにと渡した。莉子の母は不思議そうに渡された手紙を見つめる。すると、何かを気がついたように廉を見つめた。




「もしかして…あなた、まだ治ってないの?」


莉子の母の一言に廉は少し微笑む。それが廉の返事だった。その表情はどこか寂しそうだった。


廉は深く頭を下げてその場を去ろうとする。
莉子の母は慌てて止めた。


「あたなが莉子とどんな関係か分からないけど、きっと莉子が起きてくれた時にあなたがいてくれたらすごい喜ぶと思う。だから一緒にいてあげて」



母の言葉に廉は頷く。だけど呼び止めた足は止めようとしなかった。
廉はもう一度深く頭を下げると病室から去っていった。

ーーー母に手紙を託したまま、彼はいなくなった。
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