虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

「私はシャキールの跡取り、イヴンに見初められて、正臣と離れてドバイの宮殿に入りました」

 瑠美おばさんは、静かに語り始めた。

「私の他に、イヴンには既に三人の妻がいました。アラブの一夫多妻は第一夫人の力が強くて、他の妻妾が端女のような扱いを受けることもある。年嵩で、東の島国から来た私は尚更でした」 

 相当辛い思いをされたはずなのに、瑠美おばさんの静かな語り口に乗ると、何か異国のおとぎ話を聞いているような、不思議な心持ちになってしまう。

「私は他の妻妾たちと争うつもりは無かったので、いわれるままに日々を過ごしていたのですが、そんな、ある日──」 

 酒を過ごしたイヴンさんが階段で足を滑らせて転落、首の骨を折って半身不随になってしまったのだ。

「イヴンは一命を取りとめましたが、復帰は絶望的でした。するとたちまち、シャキールの内部で跡目争いが起きてしまったのです」

 争っていたのは、イヴンさんとの間に子どもを設けていた二人の夫人、第一夫人と第二夫人、そしてイヴンさんの二人の弟だった。
 トップを欠いた世界有数の石油コンツェルン、シャキールは、分裂の危機に直面してしまった。
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