虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 ホテルに戻ると、九条くんが言った。

「理恵。せっかく羽田に来たし、見せたいものがあるんだ」 
 
「見せたいもの?」

「大日本航空のフライトシミュレーターだよ」

 九条くんによると、羽田空港には大日本航空の大規模な機体整備場と、中央訓練施設があるのだそうだ。

「理恵に見てもらいたいんだ。パイロットがコクピットで何をしているか」

 そう言うと九条くんは、

「見学の申請とかいろいろ準備してくるから、小一時間くらい待っていて」

 私に言い残して、スイートルームを出て行った。

 九条くんが戻るまで、私はスイートルームの窓から羽田空港を離発着する旅客機たちを、ぼんやり眺めていた。
 
 なぜだろう。
 幸せなはずなのに、寂しくなる。
 
 瑠美おばさんに九条くんのことを頼まれたばかりなのに、心が凍えそうになってしまう。
 でも、もし九条くんが、目の前で空に昇っていく飛行機のように、大空の彼方に向かって飛んで行って、そのまま帰って来なかったら──。

 いけない、だめだ。
 こんな弱い私じゃだめだ。

 私はバスルームに駆け込むと、服を全部脱いで裸になって、頭から熱いシャワーを浴びた。
 そしてクレンジングでメイクを落として、すっぴん肌にシャワーを当てて気持ちを切り替えてから、大きなバスタオルで湯玉を拭いて、バスローブを羽織った。 
 
 ドレッサーの前で鏡に映る自分を睨みつけるように、私はドライヤーで髪を乾かして、もう一度メイクを始めた。

 精一杯元気目なメイクをしながら、私は鏡の中の自分にエールを送った。

 頑張れ、私。
 九条くんを支えて、九条くんを繋ぎ止めるんだ。
 たとえ相手が空の魔物でも、負けない。
 
 私は九条くんの、お嫁さんになるんだから。
 
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