虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 話を終えると瑠美おばさんは、

「理恵ちゃん、正臣を呼んでくださる? もうこんな時間だし、お昼にしましょう」 

 そう言った。

 私がメールを送ると、九条くんは屈託のない様子でスイートルームに戻ってきた。

「二人でなんの話をしていたの?」

「母親から息子のお嫁さんに、息子をよろしくとお願いしただけよ。それよりも正臣、みんなでお昼にしませんか?」

 九条くんの質問を、瑠美おばさんはさらりとやり過ごす。

「いいね。どこかに食べにいこうか」

「残念だけどあまり時間がないから、ルームサービスをお願いしましょう。お蕎麦と天ぷらをお願いできるかしら」

 そうしてターミナルの和食料理店から出前を取って、スイートルームに運んでもらって、三人でテーブルを囲んだ。

 部屋の外のSPさんたちの分もオーダーして、ささやかなお昼の時間。
 瑠美おばさんは、お蕎麦と天ぷらを美味しそうに平らげた。

「はあ……美味しかった。次に食べられるのは、いつになるのかしらね」

 そんな言葉を残して、瑠美おばさんは慌ただしく機上の人になった。

 羽田空港を離陸して、遠ざかっていく瑠美おばさんのプライベートジェットを見送りながら、九条くんが言った。

「ありがとう、理恵。母さんすごく喜んでくれた」

「いえ、そんな……」

「あんな感じで、母さんはすごく忙しくて、シンガポールからほとんど動けないんだ」

 プライベートジェットが消えて行った方向を見上げて、そう呟く九条くんの横顔を見つめながら、私は瑠美おばさんの言葉を思い返していた。

『正臣を繋ぎ止めて』と──。
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