Gentle rain
仕方がない。

ここにいつまでも立っていることなんでできない。

自分の足で、動かなければ。

私は気付くと、歩きながら涙を流していた。


これでいいのよ。

自分に言い聞かせる。

コツコツと、歩く音だけが響く。

さっき会った敦弥さん。

私の知らない人だった。

服はヨレヨレで、髭も生やしっぱなしで、少しやつれているようにも見えた。


「敦弥さん……」

私は涙を堪えるかのように、空を見上げた。

その先には、さっきまで敦弥さんと会っていた、あの社長室が見える。


敦弥さん。

もう、苦しまないでほしい。

敦弥さんにはもっと、楽しく生き生きとしながら、今の仕事をしてほしい。

自分の身を削りながら、やつれる程追い込まれて仕事をするなんて、敦弥さんには似合わない。


そうよ。

私には、今のあなたを救う力なんてない。
< 264 / 289 >

この作品をシェア

pagetop