Gentle rain
普段よりも口調が優しくなる。

彼女の、ふんわりした空気が、そうさせるんだ。


「そうだ。これ。」

彼女は持っていたバッグから、黒い手帳を取り出した。

「それ、俺の……」

「はい。お店に落ちていました。それと……」

「ん?」

彼女の瞳が、俺の目線から逃げる。

「勝手に中身を見てしまって、ごめんなさい。誰が落したのか知りたかったので。」

「ああ、いいよ。それぐらいの事。」


本当は会社のスケジュールが書いてあるから、他の人に見られるとまずいけれど、彼女だったらまだ大学生だし、気を病む事はないだろう。


「ありがとう。本当に助かったよ。失くして困っていたんだ。」

「それはよかったです。わざわざ届けに来た、甲斐がありました。」


その時の彼女の顔が、悲しげに見えたのは、何故なのだろう。
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