夢幻の春

夢の中でも雪人の姿を探すが、どこにもいない。


これではまるで、神隠しのようだ。


靄のかかった夢はどこでも続いている。果てしなく続く道、どこまでいっても何もない。


これは罰だろうか。雪人を傷つけ、自分すらも否定した。夢の中でも俺は泣いていた。


泣くな泣くな泣くな――あいつは、もっと辛いんだ苦しいんだ。もう、行くあてすらもないのかもしれない。


歩け足を止めるな、進め、少しでも遠くに。もしかしたらいるかもしれないんだ、この向こうに。


そこで夢から覚めた。


窓からは陽光が差し込み、カーテンが小さく揺れている。部屋の片隅にはよく音楽を流していた機器が埃をかぶっている。あんなに好きだったのに、今ではすっかり興味が失せてしまった。雪人とよくこの部屋で音楽談義をし、どの歌手が好きかとか音楽はこうあるべきだとか語った。


はじめて出会ったのはこのシェアハウス。今時のお洒落な感じで、すぐ気に入った。すぐに打ち解け、共通の趣味である音楽――歌が俺たちの仲を結んだ。いつの間にか、失くてはならない存在にまでなっていた。


気がゆるむと涙が自然と流れてしまう。


いつも隣で歌を口ずさみ、俺はその隣で歌詞を紡ぎだす。なぜか雪人の歌を聴けば魔法のように、歌詞があふれだすのだ。



『さくらに想いを託そうか。これいいなおれも好き』



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