聖なる夜に、始まる恋
(綺麗になりやがったな・・・。)


寒い中、窓をわざわざ開けて、夜空を見上げているアイツを帰り道で見つけた俺は、実はしばし、その姿に見とれてしまっていたんだ。


昔から、そう子供の頃から、京香はああやってよく、夜空を見上げていた。


「だって、キレイだし、気持ちいいじゃない。」


なんで、毎晩のようにあんなことをしてるんだと尋ねたら、そんな答えが帰って来た。あれはいつくらいのことだったろう?中学・・・いやまだ小学生だったかもしれない。


とにかく長い付き合いだ。大袈裟でなく、生まれてからずっと。幼稚園へは一緒にバスに揺られて通ったし、中学の半ばくらいまでは、一緒に登校してた。


登校がバラバラになっても、高校も一緒。大学は流石に別々だったけど、それでも一緒に東京に出たから、連絡はとってたし、たまには会って、飯食ったりしてた。


そして、お互いいい歳して、実家暮らしのご近所さんに、ほんの数日前に戻った。まさに「腐れ縁」だよなぁ・・・。


でもさ、色っぽい話は全くない。本当に全然ない。


何事もいい加減な俺は、いつもしっかり者の京香に怒られてばかり。助けてもらってる自覚はあるけど、俺はそんな京香が煙ったくて、京香は俺に呆れ顔で。


恋愛感情なんて、生まれようもなかった。でもお互いに避け合うこともなくて、一緒にいることが苦痛と感じたこともない。断言できる、俺にとって京香は「気の置けないきょうだいのような存在」、それが一番しっくり来る表現だった。


それがあの日、俺の中で突然変わった。


京香が留学に旅立つ日の朝、挨拶にやって来たアイツは


「じゃ、またね。バイバイ。」


無理矢理笑って、俺に言った次の瞬間、ドッと涙をあふれさせたかと思うと、踵を返して、駆け去って行った。少なくとも、小学生になって以降、俺は京香の涙を見たことがなかった。


俺の中の京香はいつも強くて、しっかりしてて・・・そのイメージしかなかった。それだけに、彼女の涙は、俺にとっては衝撃的だった。


京香は、本当に尚輝が好きだった。愛していた。だけど、その愛する人の為に身を引いたんだ。俺は素直にすげぇと思ってた。


でもやっぱり辛かったんだ、アイツは本当は留学なんかしたくなかったんだ。ずっと尚輝の側にいたい、それ以上の望みなんて、京香にはなかったんだ。それなのに・・・京香の涙を見た俺は、胸をつかれた。


(守ってやりたい・・・。)


初めて、そう思った。
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