聖なる夜に、始まる恋
本音を言えば、私もこっちで暮らしたい。都会での生活も悪くないとは思っているが、やっぱり生まれ育った故郷、そして両親の側で暮らせるのは、いろんな意味で安心感がある。


高校を退職する時、突然、我が儘を言ったにも関わらず、校長は


「君が戻って来た時、まだ私が在任してれば、遠慮なく相談に来なさい。」


と言ってくれた。実際、颯天高校での3年間の教員生活は充実していた。最後の1年はクラス担任もやらせてもらって、苦労も多かったけど、やり甲斐も感じていた。でも結局私は、その教え子たちに満足な挨拶も出来ずに退職してしまった。彼らは今、高校を卒業し、それぞれの道に羽ばたいているはずだ。そんな生徒たちに最後まで寄り添うことを放棄してしまったことに、後ろめたさを感じているのは確かだった。


それにやり甲斐はあったけど、高校の教員はとにかく忙しい職業だった。その傍らで自分の制作活動をするのは、かなり難しいだろう。カルチャ-スク-ルの講師は、教員より遥かに拘束される時間は少なくなるはずだから、その点ではいいのだが、都会に比べて残念ながら、求人が少ないはず。


どちらに拠点を置くにしても、メリット、デメリットがある。俄かには、判断はつきかねた。


結局、この日は結論は出ず持ち越しに。


部屋に戻った私は、締めていたカーテンを開き、更に窓を開ける。内陸県のこの時期の夜は、もう完全に冬。冷たい夜の空気が、パッと部屋の中に入って来る。


(寒!)


思わず、身を縮こませるが、ふと空を見上げると、冬の夜空に満天の星空が広がっている。


(きれい・・・。)


私は寒い日の澄んだ夜空を眺めるのが、昔から好きだった。


「相変わらず、寒そうなことしてるな。」


すると、下の方からそんな声が。つられて視線を落とすと、明らかな仕事帰り姿の秀が、こちらを見上げている。


「あっ、お帰り。お疲れさん、こんな時間まで大変だね。」


「もうすぐ師走だからな。こっちも徐々に書き入れ時だ。」


私の言葉に秀はそう言って笑ったあと


「乙女チックも結構だけど、齢考えろよ。風邪ひくぞ。」


失礼なことを言って来るから


「なにぃ?」


と睨んでやると


「すまん、冗談だよ。」


と首をすくめ、逃げて行こうとするから


「ねぇ。」


と呼び止める。


「うん?」


「私のお帰り会、してくれないの?」


「ま、そのうちな。」


私のおねだりを軽くあしらうと、秀は私に背を向けながら、サッと手を上げるとそのまま帰って行った。
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