秘密のノエルージュ
「菜帆ちゃん」
食堂の席に座ってスマートフォンの画面に熱中していると、正面から声を掛けられた。待ち合わせている女友達三人の誰でもない――男性の声に驚いてパッと顔を上げると、そこには菜帆が密かに憧れている先輩が立っていた。
「あ、先輩。こんにちは」
「こんにちは。……隣いい?」
先輩が菜帆の隣を指さす。六人掛けのテーブルの端に座っていた菜帆は、偶然会えた嬉しさを感じながらコクコクと頷いた。彼は菜帆が待ち合わせている友人たちとも顔見知りなので、同席しても大丈夫なはずだ。
売店で買ったサンドイッチとコーヒーをテーブルの上に置いた先輩が、席に腰を下ろす。その動作を眺めてると、ふと先輩の視線が菜帆の手元に落ちた。
「菜帆ちゃん……それ……」
「え?」
困ったような顔をしている先輩の『それ』が指し示す場所を見る。それは菜帆のスマートフォン。その画面の中からは、下着姿の女性がこちらに向かってに静かに微笑んでいる。
「あっ……いや、これは……!」
認識した瞬間に、慌ててスマートフォンを後ろ手に隠す。アン・フルールのホワイトキャロルシリーズは、すべて海外の女性モデルがプロモーションを担当している。先輩の目には、下着姿の外国人女性の画像にしか見えなかったと思う。