秘密のノエルージュ
――クリスマスはもうすぐそこまで迫っている。そんな月曜日。
「大和」
マンションから出てすぐに、先を歩く大和の背中を見つける。小走りで大和に追いつくと、イヤホンを外した大和に『おはよ』と声を掛けられた。
セクハラ発言じゃなくて、普通に朝の挨拶をされた事が珍しい。けれど妙に気恥ずかしくて、大和の顔を見ることが出来ない。顔を上げて目が合ったら、顔が火照ってしまいそうな気がした。
「昨日、ごめんね」
菜帆は昨日、大和を盛大に放置した。真剣な告白に返事もせず、返事をするための期間を設けることもせず、驚きのあまりその場から脱兎のごとく逃げ出してしまった。
これは怒られても、呆れられても仕方がない。だからとりあえず謝罪をしなければ、と意を決して顔を上げる。
「私っ……」
「WHO-LILLのホリデーランジェリー『ノエルージュ』」
「……」
口を開こうとした瞬間、大和が突然、呪文のような言葉をたくさん羅列しはじめた。
一瞬、間が空く。
菜帆には大和が発した呪文の全てを正確に理解できた。その聞こえた内容に驚いて顔を上げると、ようやく大和と目が合う。その瞳はやっぱり真剣そのものだった。