偽装夫婦のはずが、ホテル御曹司は溺愛の手を緩めない

「まあ、これはブライダルフェア用の装飾だからな。こんなに飾りが多いと動線を確保できないから、実際はもう少し少ないはずだ」
「確かにそうですよね。盛れば盛るほどオプション料金がかかりますもんねぇ」
「いや、費用はどうでもいいんだが……」

 響一の言葉にふむふむと納得する。確かに着慣れないウェディングドレスを纏った花嫁が狭いテーブルとテーブルの間を移動したり、たくさんの装飾を盛りつけられた高砂に長時間座るのは窮屈だろう。

 だからこれはあくまで『見本』で、ウェディングパーティー本番では席数や装飾を調節すると言われて納得する。

 そんな会話をしつつスタッフの会場説明を聞いていると、着席したフェア参加者の前に試食用のワンプレートが用意された。

 縁の無い切り出した大理石の板の上には、デミグラスソースがかけられた牛肉やスパイスでソテーされた白身魚、野菜を野菜で巻いたピンチョスに、見た目からは味の想像がつかない色鮮やかなムースが乗せられている。それに一口サイズのショートケーキも。

 その美しい宝石箱のような試食ワンプレートを見たあかりは、つい興奮の声を上げてしまう。

「ふぉああぁ……! 美味しそう……!」
「食べていいんだぞ?」

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