夕立のあとには……
中学を卒業した私は、飛鳥と同じ高校に進学した。

それなりにハイレベルな高校だから、私をいじめた子たちは、飛鳥を追って入学することもできない。

これで快適な高校生活が送れる。

私は、意気揚々と高校生活をスタートさせた。

ただ、唯一の難点は、朝の通学で使う電車だった。

満員電車にすし詰め状態。

それは、2年生の春のこと。

身動きが取れずにいると、後ろから手が伸びる。

やだ、また痴漢!? 気持ち悪い……

でも、怖くて声を上げることもできない。

そうしてると、そろそろとスカートがたくし上げられるのを感じた。

えっ、うそ、やだ……

初めてのことに、どうしていいのか分からない。

私は、半分涙目になりながら、我慢していると、近くで声がした。

「おっさん、その汚い手、離せよ」

その瞬間、背後に感じていた手が、パッと離れた。

「おっさん、次の駅で降りろよ」

身動きが取れなくて、後ろを振り返ることもできないけど、この声は飛鳥だ。

「いや、俺は何もやってない」

すぐ後ろで低いおじさんの声がする。

「やってないのに、なんで日和が泣いてんだよ!」

えっ?

私から、飛鳥は見えない。

なのに、なんで……

「そこにいて、泣いてるかどうかなんて、分かるわけないだろ」

おじさんが反論する。

「後ろから見てれば、分かるんだよ。何年日和と一緒にいると思ってんだ」

飛鳥……

そうしているうちに、減速を始めた電車は、程なく駅のホームに停車した。

扉が開くと同時に、人波をかき分けるように、私の背後から男性が飛び出した。

「おい! 待てよ!」

飛鳥が声を掛けるけれど、彼は止まることなく、階段を駆け上がっていく。

「ふぅ……」

私の後ろで、飛鳥がため息をついた。

「日和、大丈夫か?」

さっきの主要駅で人が減った車内で、飛鳥が隣に並んだ。

私は、涙でにじんだ目を伏せるように、こくんとうなずいた。

「日和、明日から迎えにいくから、朝は一緒に登校するぞ」

飛鳥がポンっとうつむく私の頭に手を置いた。

「ん……」

私は、小さな声で返事をする。





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