大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
***

「ひとつだけ日織(ひおり)さんを安心させて差し上げましょう」

 最上階の一室に入るなり、修太郎(しゅうたろう)が日織を部屋の中に半ば強引に引き入れて、そう言った。

「あん、しん?」

 この状況でそう言われても説得力がない。
 そう感じた日織が、恐る恐る修太郎の言葉を繰り返せば、修太郎が自分の携帯を日織の方へ向けてきた。


「部屋を取る前に、日織さんのご両親にはちゃんと許可を取り付け済みです」


 夫婦が一緒に過ごすことに誰の許可が要るというのか?と言ったのと同じ口で、修太郎はその辺りのことはちゃんと済ませてあるのだと言う。

 どこか矛盾しているようにも感じられる言動だけど、日織がまだ実家住まいなことを思えば、それは一緒に暮らす家族への当然の配慮だと言えた。

「修太郎……さん……。有難う、ござい、ます」

 このまま帰らなくても、両親の気を揉ませることはないのだと知って、日織はホッと胸を撫で下ろして。

 だけど修太郎の冷ややかな表情を見ると、家に帰れないことを手放しに喜ぶことも出来ない気がした。
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