ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
「え?」
「その顔じゃあ知らなかったんだろうな。航大は交通事故で重傷を負ったんだ」
言葉が上手く頭の中に留まってくれなくて、ストンとどこかに消えていく。
「え?」
「三か月ほど前だった。病院で手当てを受けていたが、三日後に病院で亡くなった」
「三か月も……前に?」
佳奈に病気が見つかってバタバタしていた頃だったから、新聞やニュースなんて見てなかった。見る時間もなかった。
「亡くなっていた?」
その時、顔も知らぬ佳奈の恋人の白石航大を悼むよりも、佳奈になんて言えばいいのかで頭の中がいっぱいになってしまった。
(佳奈になんて言えばいいんだろう。恋人が亡くなっていたなんて)
ただでさえ病気で気持ちが弱っている佳奈に伝えられるはずもない。
捨てられたんじゃあなくて、恋人は亡くなっていたなんて口が裂けても言えない。
「どうしよう」
思わず私は顔を覆って俯いてしまった。
(佳奈……)
可哀そうすぎる。
佳奈の心を思うと涙が出てきた。祥太の未来を思うともっと泣けてくる。
声を殺して涙を堪えていると、いきなり肩を掴まれた。
「大丈夫か?」
思いがけず、優しい声が頭上から聞こえてきた。