ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
隠されていた事実
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マンションで航大の子供の母親らしき女性と会った翌日、友哉は白石商事の副社長室で三上に会っていた。
父は不在だったが、秘密の話をする為に一時間ほど貸してもらったのだ。
「どうだった?」
三上は興味津々と言った顔で聞いてきた。
「どうだったとは?」
「いや、ホントに航大の子供で間違いないのかな?」
弁護士らしく、三上は冷静な口調で友哉に確認してきた。
「いや、詳しい話しはしていない」
「えっ?」
「航大が亡くなっていたことを、彼女は全く知らなかったんだ」
三上が珍しく表情を変えるほど驚いている。
「まさか?」
「泣き出して、困った」
ほろほろと泣く姿が余りにも痛ましくて、友哉は思いがけない行為に及んでしまったのだ。
「そりゃあ、お前の強面の顔で言えば女性は泣きだすだろうな」
「ふざけるなよ」
「ああ、悪い。だが、本当に航大の子なのか確認しなかったのはまずくないか?」
航大の財産や会社のことを考えたら三上の言葉は当然のことだ。
だが、友哉には素直に受け入れられない。
「第一印象は悪くなかったし、金に困ってもなさそうだ。子どもは大事に育てている」
「お前、やけに庇うな」
「単に、見たままを言ってるだけだ」
長年の友人である三上は、それだけではなさそうだと思ったが口にはしなかった。
「それなら、これからどうする?」
「彼女が落ち着くのを待つしかないだろう。連絡してくるように言っておいた」
「彼女と子どもの名前は? 藤本なんていう名前なんだ?」
「あ、聞きそびれた。子供は『しょうた』だったか。」
「ああ……」
三上が残念そうにため息をついた。
「なんだ?」
「お前にしては珍しく抜けてるし、お優しいな」
「仕方ないだろ。航大の恋人だった女性だし、デリケートな問題だ。幼い子どもも絡んでる」
そう言われたら三上も反論できない。
「それじゃあ、わかる範囲で調べておくわ」
「急がなくていいぞ。俺もチョッとカイロ支社に帰って、あっちの仕事を整理してくる」
「おや? 本社に帰ってくる準備か?」
三上が驚いた顔を見せた。友哉の若さでカイロを任されるのは滅多にないことだった。
「ああ、航大がいなくなった以上、こっちの穴埋めをしないとな」
これからは友哉がひとりで父や伯父の仕事を支えなければならない。
「カイロにはどれくらい? いつ帰って来る?」
「年明けにはこっちに帰ってきたいところだ。遅くとも二月までは向こうかな?」
友哉は、帰国して仕事が落ち着いたら航大の子どもの扱いを相談しようと三上と約束をした。
だが友哉が再び日本に帰ってこられたのは、翌年の秋になってからだった。