ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
山崎製薬との契約が終わった友哉は、社長に見送られてタクシーに乗りこんだ。
だが門を出て少し走らせてから、直ぐに車から降りた。
彼は山崎には黙っていたが、会社の近くの保育園へ行ってみようと決めていたのだ。
そろそろ園児のお迎えの時間だろうから、もし瑠佳が子どもを育てているとしたら保育園にくるはずだ。
(会えるかもしれない)
友哉の胸は期待で膨らんでいた。
従兄弟が言い遺した『子どもを頼む』という言葉は重い。
だが、今の友哉には子どもより彼女に会いたいと思う気持ちもわき上がっていた。
友哉がスマートフォンの地図を頼りに工場周辺を歩いていると、母子連れがチラホラ目に付くようになった。
(この辺りか)
レンガ塀の角を曲がると、可愛い動物の絵が描かれた門が見えてきた。
ここが山崎が言っていた保育園だろう。
少し離れた場所から、門を注意深く見つめた。
十月も後半になると、五時を過ぎると夕焼けの時間は過ぎて辺りは薄暗い。
だが園の周辺は街灯に照らされているし、玄関は煌々と明るいので人物の顔は十分に見分けがついた。
「先生、さよなら~」
子どもたちの元気のいい声と、母親同士の話し声が聞こえてくる。
友哉が経験したカイロの暮らしとは真逆の平和な日常生活がここにはあった。
土埃も硝煙の匂いもないことが奇跡なのだ。
明るくて穏やかな暮らしがどれだけ貴重なものか、友哉にはよくわかっている。