ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


何気なく友哉が中庭を見下ろしていると、白衣の女性の中に見覚えのある顔があった。

(あれは……)

髪は短くなっているが、あの顔は記憶にあるままだ。

「あれ? お知り合いですか?」

山崎が友哉の顔色が変わったのがわかったのか、声をかけてきた。

「ええ、まあ」

「ああ、彼女目立ちますからね。とても優秀な研究職員です。大手企業にいたんですが、うちに来てくれまして」

「藤本瑠佳さんですね?」

「ご存知でしたか?」

「はい。従兄弟の知り合いなんです」

山崎社長の手前、言葉を濁しながらも嘘は言っていない。

あれから随分探したが、藤本瑠佳の消息は掴めなかった。
三上や真理恵も随分頑張ってくれたが、東京都内にはもう住んでいないように思いかけていたところだった。

なにしろあの夜の出会いから、友哉の心には瑠佳が住み着いているのだ。

出会った時は亡くなった従兄弟の恋人だと思い込んでいたが、カイロから帰国して事実がわかった。
瑠佳は航大の恋人の佳奈の妹だったのだ。

『もう一度会いたい』

友哉はずっと考えていた。もう一度だけ彼女に会って、あの夜に感じた気持ちの正体を知りたかった。

瑠佳は友哉が初めて涙を拭いて支えてやりたいと思った女性なのだ。
あの夜も泣いている瑠佳の細い肩を抱きしめたくなって、触れずにはいられなかった。
そして子どもを大切にしている姿に、彼女自身の愛情の細やかさがあった。
どれも友哉がこれまでに付き合った女性には感じたことのないものだったから、余計に魅かれたのかもしれない。



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