ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
新しい世界
次の日、瑠佳はいつも通り出社した。祥太も保育園だ。
昨日はあれからすぐに諏訪に帰ってきていたのだ。
友哉からは今日、成田に着くと連絡があった。
『気になって仕事どころではないから、瑠佳の顔を見に帰る』
友哉に顔が見たいと言われただけでソワソワしてしまう。
昨日の疲れもあって身体のだるさを感じてはいたが、友哉が帰ってくると思うと気持は明るくなる。
午後になって、珍しく山崎社長からの呼び出しがあった。
以前に社長から呼ばれたのは、友哉との結婚を決めたあとだった。
(今日はなんだろう)
瑠佳は久しぶりに、社長室のドアをノックする。
「失礼します」
社長室では、山崎が待ち構えていた。
「白石さん!」
「社長、申し訳ございませんが『藤本』でお願いいたします」
「ああ、そうでした。すみません、焦ってまして」
珍しく慌てているような山崎に促されて、デスクの前の椅子に腰かけた。
「それがですね、急に白石商事から申し出がありまして」
「え? 夫からですか?」
「いいえ、社長さんご本人からです」
「すみません、私はなにも聞いておりません」
正直に答えたのだが、山崎は興奮している。
「突然ですが、お亡くなりになった息子さんのお名前で基金を立ち上げて、都内に新薬の研究室を作るとおっしゃるんです」
「わあ⁉ 研究室ですか?」
瑠佳にも山崎の喜びが伝わってきた。
「しかも、我社に協力して欲しいと言われてまして」
「素晴らしいですね」
「新薬の研究には莫大な資金がかかりますから、うちのような新興の企業には難しいと思っていたんです」
瑠佳はそんな話を聞いていなかったので、もしかしたら文香が言いだしたのではと思った。
「突然、夢が突然叶うなんて信じられなくて。あなたならご主人から聞いているかと思ったんです」
「すみません。なにも夫から聞いていません」
「そうでしたか。急にわかったので、忙しい時に呼び出してすみませんでしたね」
「いえ、こちらこそお役に立てなくて……」
申し訳ないが仕事に戻ろうと、瑠佳が椅子から立ち上がった。
だがその瞬間、クラリと眩暈がした。